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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)4706号 判決 1975年3月28日

原告 豊工機株式会社

右代表者代表取締役 福田豊蔵

右訴訟代理人弁護士 宅島康二

同 松永二夫

被告 谷山至広こと 康達明

右訴訟代理人弁護士 野村正義

同 藤田良昭

同 片岡成弘

主文

原告の第一次請求を棄却する。

被告は原告に対し金一五〇万円と引換に別紙目録第二および第三記載の建物を収去して、同目録第一記載の土地を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、当事者双方の求める裁判

(一)  原告

イ、第一次請求

「被告は原告に対し別紙目録第二記載の建物(以下旧建物という)および同目録第三記載の建物(以下新建物という)を収去して同目録第一記載の土地(以下本件土地という)を明渡し、昭和四七年一〇月二二日から右明渡済みまで一箇月金一万円の割合による金員を支払え」との判決および仮執行宣言

ロ、第二次請求

「被告は原告に対して金一五〇万円と引換に新建物および旧建物を収去して本件土地を明渡せ。」との判決および仮執行宣言

(二)  被告

「原告の請求をいずれも棄却する。」との判決

≪以下事実省略≫

理由

一、主位的請求について

(一)  原告は、被告の借地上の増改築をもって本件土地賃貸借契約の解除理由とするようであるが、本来借地人は借地上を所定の目的に従って全面的に利用する権利を有するもので、特に増改築を禁止する特約の存しない以上、賃貸人において借地人が賃借地上に増改築することを阻げ得ないことは借地法第八条の二の二項の規定からも窺えるところであり、然も≪証拠省略≫によれば、新建物は所謂プレハブ工法によるもので、建坪面積一九・八三平方米、工費二三万円、組立、解体ともに半日程度で可能な永久的建物とはいい難い程度の建物であることが認められ、原被告間の土地賃貸の目的を逸脱する建物とは到底解し難いから、たとえそれに先立つ増改築許可申立事件において同申立が棄却された事実があるとしても、新建物の建築が原被告間の契約違反に当るとはいい得ず、これを理由とする解除は効力がないというべきである。従って原告の第一次請求は失当であって、棄却を免れない。

二、第二次請求について

(一)  原被告間に借地関係が存在し、右借地の期限が昭和四七年一〇月一七日となっていることは≪証拠省略≫によりこれを認めることができ、原告が右期限後である昭和四七年一一月八日に被告に送達された本件訴状により被告との借地契約の更新に異議を申述していることは記録上明らかである。

(二)  被告は、右異議について正当事由の存在を争うところ、≪証拠省略≫によれば、被告は昭和二七年一〇月に本件土地を訴外株式会社稲村機械製作所から昭和四七年一〇月一七日を期限とし、かつ、木造建物の所有を目的として賃借していたのであるが、地上建物の保存登記を怠っているうちに原告が本件土地の所有権を取得したことから地上建物の収去土地明渡の調停を申立てられ、その結果昭和四〇年一二月一一日に原告が前記稲村製作所の被告に対する本件土地賃貸人の地位を承継することになったところ、当時本件土地上には木造の旧建物が存在していたものの、同建物は木造バラック造りで概ね当初約定の賃貸期限である昭和四七年一〇月ごろには朽廃する程度のものであったし、被告が昭和四四年に申し立てた建物増改築許可申請(大阪地方裁判所昭和四四年借チ第八〇号)も当初約定の借地権の存続期間が残存二年有余であることを主な理由として棄却されていること、原告は本件土地の北および東側の土地を所有してここで機械工業を営んでいるものであるが、本件土地は南側の主要道路に面していて原告の工場用地と同道路との間を一部においてさえ切る位置にあるところ、近時原告の取扱い商品が巨大化するにつれ、右主要道路から原告工場への原材料、製品の搬入、搬出に不便をきたし、南面の門を拡張するためには南側主要道路に沿う原告の事務所建物を移動することを要し、このためおよび更に原告工場を拡張するために、原告が本件土地の使用を望むのも無理からぬこと、もっとも、被告、または被告の妻は既に二〇年近く本件土地上で古鉄業を営み、附近に顧客が集中して、ここを去ると営業上大きな損失を蒙ることが認められるけれども、一方被告は昭和四三年九月には尼崎市内に約四〇〇平方米の土地を得て、ここで製かん業を営んでおり、同地上に本件土地程度の余った広さを求めることは必ずしも困難でないこと、の諸事実が認められる。右各事実から考えるに、被告が本件土地の借地権の存続を望むことは一応当然として、被告は借地の始めにおいてその期間を二〇年と予想していたのであり、然も借地期間中の増改築を別にして考えると、地上の建物は当初の借地期限のころに概ね朽廃する運命にあり(鑑定結果によれば旧建物の残存耐用年数は六年と認められる)、借地人に対してその営業活動を借地の期限に合せて調整して行くことを期待してもおかしくはなく(事実被告は借地の終了の場合を考慮して新建物を撤去の容易なプレハブ工法としている)、原告が自らの営業上の都合から借地権の存続期間の満了を期して更新を拒絶することは理由があり、更に借地権の存続を前提とする本件土地の借地権価格約九〇三万円の約一・五割に相当する金一五〇万円を補償することにより、原告の更新拒絶は正当な理由を具備すると解するのが相当である。

(三)  そうすると原告の前記更新についての異議により、被告の本件土地賃借権は約定の昭和四七年一〇月一七日をもって終了しているというべきであるから、被告に対して金一五〇万円引換に地上の新旧建物を収去の上本件土地の返還を求める原告の第二次請求は理由がある。

三、結び

よって原告の第一次請求を棄却した上、第二次請求を認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を適用し、仮執行の申立についてはこれを不相当として却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 松島和成)

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